山下紘一郎

部族と部族の争いは部族神と部族神との戦いでもあった。いくつもの部族のうえにたち、天皇部族が宗教的、政治的勢力を拡大して統一的国家形成に向けて歩み始めたころ、天皇(ヒコ)は自らの政事権力を飛躍的に強めていき、それまで巫女王として皇女(ヒメ)が把持してきた祭事権力の核心部分を奪取したばかりか、その祭事権力との訣別を開始していた。 王権内部で政事権力が祭事権力を凌駕していく過程は、『日本書紀』のなかの、かつて天照大神に仕えてきた巫女王がやがて宮中から追いやられて漂泊の旅に出立し、ようやく伊勢にたどり着いたときに、天照大神の神託が降りて、都から遠いこの聖地にとどまることになったという物語に照応している。